CBD TAROT DE・MARSEILLE
(CBDマルセイユタロット)




 近年マルセイユ系デッキの新作が数多く発表されているが、中でもこの「CBDマルセイユタロット」は間違いなく傑作の一つに数えられるべきものである。製作者のヨアヴ・ベン・ドヴ博士はテルアビブ大学で科学史や科学哲学の教鞭を執るバリバリの科学畑の人なのだが、一方で先頃来日したかのアレハンドロ・ホドロフスキー監督から直々にタロットを学び、さらにはヘブライ語による最初のタロット本を著したという異色の人物。彼が長らくマルセイユ版のスタンダードとされてきたニコラ・コンヴェル版(1760年)をベースににそのデザインを絶妙に現代的にリメイクしたのがこのデッキである(CBDとは"Conver - Ben Dov"の意)。

旧来のマルセイユ版とは一線を画したその最大の特徴にして美点は、実に柔らかな色使いと人物たちの表情にある。

クラシック音楽の世界には作曲された当時の様式による楽器や演奏法で演奏する「古楽」というジャンルがある。それに関する一部の主張に「当時をそのまま再現するようなやり方では、ロック音楽などに慣れた現代人の耳(=脳)にはマッチしない」というものがあるが、同僚の音楽史家から聞いた件の考え方が博士にヒントを与えた。古典的マルセイユ版のデザインは当時としてははこれが「自然」だったのであろうが、たとえば写真に写る際には笑顔が当たり前となっている現代人にはどうにも冷たくて硬いという印象を与えがちである。博士はオリジナルのコンヴェル版のデザインを最大限尊重しつつ、現代人の感覚と精神にマッチするよう色合いを柔らかく抑え、人物たちの表情も柔和なものとなるべく按配した。そうして完成した「CBDマルセイユタロット」は、確かに見るものにどこかホッとするような、安らぎを感じさせるようなものとなっている。これは博士がタロットのリーディングにおいてセラピー的な要素を重視することとも関係しているのであろう。

さらにもう一つの大きな特徴が絶妙な実用性。サイズは120×62mmと比較的小ぶりで扱いやすく、カードはCARTA MUNDI社製で品質極上、滑らかでシャッフルも容易。マルセイユ版使いの方々は言うに及ばず、これを機に今までマルセイユ版を敬遠なさっていた方にも是非手に取って実際に使ってみて頂きたい。これらの美しくまたチャーミングなカードたちは実に人懐っこく、すぐに打ち解け親しき友人となれること請け合いである。

(なお、このデッキに魅了された方は是非博士の著書"Tarot - The Open Reading"も手に取られることをお勧めしたい。メアリー・K・グリーア女史やマーカス・カッツ氏など決してマルセイユ版が専門ではない大御所方も絶賛する、現在最高レベルのマルセイユ版入門書である。)

 (78枚、62×120mm)




\4,000(税別)
日本語解説書付き
*品切中


 
製作者サイト(英語)


文責:夢然堂